歯周病が進行すると菌や毒素が、血液を介して心臓などの全身の臓器に運ばれ、さまざまな悪影響をもたらします。重度の歯周病にかかると、健康な人に比べ、動脈硬化による心疾患や脳卒中にかかるリスクが2〜3倍高くなることがわかってきました。細菌性心内膜炎は、血管内に入った金が心内膜に付着、増殖し発症します。心疾患を持っていたり、免疫力の低下した高齢者では、お口の中を清潔に保つ必要があります。
口臭は生理的講習と病的口臭の大きく2つに分けられます。病的口臭には、全身的な病気(胃、肺、花、代謝異常等)と口の中の病気(歯周病、舌苔等)があります。歯周病菌の中には「硫化水素」や「メチルメルカプタン」などの臭い物質を作り出すものがあります。これが口臭の元となります。歯周病が口臭の8割を占めています。舌苔は、お口の粘膜が剥がれ落ちて下に白く溜まり腐敗したものです。口の中に付着している歯垢や舌苔を歯ブラシや舌ブラシで丁寧に取り除くことや、歯周病を治療することが口臭の予防につながります。
高齢者や、寝たきりの人、脳卒中の後遺症などで飲み込む力が低下している人は、誤ってお口の中のものが気道へ入り込んでしまうことがあります。重篤な歯周病があったり、お口の中が不衛生だったりすると、歯周病菌など、お口の中の細菌が気管に入り込み、肺炎にかかることがあります。高齢者が亡くなる原因として最も多いのがこの“誤嚥性肺炎”です。飲み込みが上手くできるようにトレーニングすると同時に、お口の中を清潔に保つことが、予防につながり命を救うことにもなります。
お口の健康のために
手や足の指先が青紫色になって強い痛みがおこり、潰瘍になってひどくなると細胞が死んでしまう病気です。喫煙者に多く、原因不明と言われてきましたが、バージャー病患者の口腔内と患部の血管を調べた結果、すべての患者が中等度から重症の歯周病にかかっていることがわかりました。それにより、バージャー病の予防や治療につながっています。
一生のライフステージを通じて快適な生活を続けるには、自分の歯でよく噛むことがとても大切です。むし歯や歯周病は単に「歯」だけの問題にとどまりません
歯を失うだけでなく、その原因である細菌が血液から全身に巡り、からだの臓器や器官に侵入し、さまざまな病気を引き起こします。
歯周病は、プラーク(歯垢)や歯石が原因で起こりますが、初期には痛みなどの自覚症状はありません。徐々に進行し、歯茎が赤くはれ、出血しやすくなり、さらに歯が動き出して膿が出て口臭もひどくなり、物が噛めなくなってしまいます。最終的には歯が自然に抜けたりもします。
歯周病のために深くなった歯と歯ぐきの間のみぞ、いわゆる歯周ポケットが5mmあると、ポケットの内側にできた潰瘍の面積は全部で8cu四方、つまり64平方cuにもなります。これはご自分の手のひらと同じくらいの広さになります。手のひらいっぱいに潰瘍ができていると考えれば怖くありませんか?
噛み合わせや歯が悪いと、無意識のうちにそれをかばって不自然な噛み方で食事をしてしまいます。そうすると、あごの周りの筋肉が異常に緊張して硬くなり、血行が悪くなって筋肉性の痛みとなって頭痛、肩こりが起こります。あごが鳴る、口が大きく開かない、あごが痛むなどの症状は顎関節症の三大症状といわれています。顎関節症の人には、仕事はおろか日常生活さえままならない深刻な症状に苦しめられる人もいます。体のバランスの不調が原因となることもありますが、慢性的な肩こりや頭痛に悩まされているのであれば、一度、噛み合わせチェックしてみてはいかがでしょうか。
お口と皆さんの身体は、大きなかかわりがあることがわかりましたか?
1983年にピロリ菌が胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんリスク因子であることが見つかりました。ピロリ菌の保菌者は、菌を持たない人に比べ約5倍も胃がんになりやすいのです。このピロリ菌は歯周病菌によって威力を増します。ピロリ菌は胃や食道に繁殖しているだけではなく、歯周病の状態の歯肉(ポケット)に存在することが証明されています。ピロリ菌は「お口」からやってきます。ピロリ菌は抗生物質で除菌できますが、お口にかなり繁殖しているので、それと並行して歯周病治療をしないと効果がありません。
妊娠中は、つわりなどで歯磨きがむずかしくなりがちです。そのため、歯ぐきの炎症が起こりやすく、歯周病になる人が多くなります。タバコやお酒によって流産や早産の危険性が高まることは広く知られていますが、実は歯周病にかかっている場合にも危険性が高くなることが報告されています。これは、歯周病の炎症で出てくるプロスタグランジン(PGE2:子宮に収縮などに関わる生理活性物質)などの物質が、胎盤に影響するためだろうと考えられています。気分の良い時に、小さめの歯ブラシを使うなど工夫して、できるだけお口の中を清潔に保つようにしましょう。
「いいな、いい歯。」
普段、お口の中やお口の働きについては、痛む、噛めないなどの症状がないとあまり気にとめません。
「口は命の入り口」といわれるほど重要な役割を担っています。皆さんのお口の中には、いつも細菌が500種類、1億以上もいます。体が弱ってきたりすると、この中の細菌が身体に悪影響を及ぼします。これらを防ぎ、身体の健康を保つには、お口も中をキレイにしておくことが大切です。そのためには、自分自身でキレイにするセルフケア、あなたのお口のホームドクターを見つけ、定期的に管理してもらうプロフェッショナルケア、歯科医師会や行政が行うパブリックケア、この3つが大切な柱になってきます。
認知症には、何らかの原因で脳が委縮するアルツハイマー型と、脳卒中の後遺症として起こる脳血管性とがあります。脳血管性認知症の原因は脳卒中です。脳卒中の原因は、動脈硬化を防ぐことが大事なポイントとなります。歯周病菌は、動脈硬化を促進するので、歯周病を防ぐことが脳血管性認知症のリスクを減らすことになります。アルツハイマー型認知症は、脳に委縮が見られるのが特徴です。歯の本数の少ない人ほど脳の委縮が進んでいたという報告があります。また、アルツハイマー型認知症の人が健康な人より残っている歯の本数が少なかったという報告もあります。噛むことが脳を活性化させることにつながります。
プロフェッショナルケア(専門的口腔ケア)
メタボリックシンドロームとは、内臓に脂肪が蓄積した肥満、高血糖、高血圧などの危険因子が重なった状態のことをいいます。これらの危険因子が重なることにより、生命にかかわる病気の発症する確率が高くなります。糖尿病や肥満のある人には歯周病が多く、しかも重篤になりやすいことがわかっています。メタボリックシンドロームの要因である肥満、高血糖、高脂血圧、高血圧のすべてに深く関与しているのが食生活であり、バランスの取れた適切な食事をとるためには歯の健康が欠かせません。
〜口腔と全身とのかかわり〜
パブリックケアの担い手福岡県歯科医師会の事業
セルフケア(自分自身でのケア)
●適切な歯ブラシや歯間清掃用具を選択し、すみずみまできれいに清掃する
●虫歯を引き起こす甘味食品の量を制限し、栄養バランスのとれた食事を良く噛んで食べる
●全身のリラクゼーションを心がけ、顔面、口腔を良く動かし、摂食・嚥下のための良好な口腔機能を保つ
●フッ化物入りの歯みがき剤を使用し、むし歯予防に役立てる
●むし歯、歯周病の状況を診て、全身状態、口腔内の状況に合った適切な口腔清掃のアドバイス
●日常的には清掃できない部位の専門的歯間清掃
●口腔機能の維持、回復を図る機能的口腔ケア
●食介護への支援
●フッ素化物洗口など、予防に関係する薬剤の紹介と正しい使い方の指導
現在歯数とは、残っている歯の総数で、むし歯の歯も含みます。一人平均の現在歯数は、20歳で28.8本、30歳で28.6本、40歳で27.5本と少しずつ減って行きます。50歳では24.8本、60歳では21.3本、70歳では15,2本、80歳では8.9本となり40歳代を境に急速に自分の歯が失われていくことがわかります。この歯を失う2大原因は、むし歯と歯周病で全体の74.2%も占めています。40歳代からのむし歯と歯周病の予防は大変重要となってきます。
糖尿病の人は健康な人と比べて、歯周病にかかっている割合が多く、重症化しやすいことがわかっており、歯周病は糖尿病の6番目の合併症と言われています。歯周病を改善すると、糖尿病の状態も良くなるなど、歯周病と糖尿病は相互に影響を及ぼしています。糖尿病の人は、免疫力が低下して、歯ぐきの炎症がおこりやすくなるため、糖尿病が歯周病をもたらし、悪化させます。さらに、歯周病がひどくなると、炎症性の物質(炎症性サイトカイン)がインスリンの血糖値をコントロールする働きを妨げて、糖尿病の状態を悪くするといわれています。
骨粗しょう症は、更年期以降の女性に多い病気です。女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が低下すると、身体だけでなく、歯を支える歯槽骨(歯を支える骨)の骨密度にも悪影響を及ぼし、歯周病を悪化させます。骨粗しょう症の人が歯周病になると、歯槽骨が急速にやせてしまいます。また、歯周病で歯を失うと、噛む力が衰えて、食事によって得られるカルシウムが不足してしまい、さらに骨を弱くしてしまう悪循環を招いてしまいます。